実に四ヵ月ぶりにおひさしぶりです……すいません。欠片も日記として機能してませんね。最近は忍の卵にうつつをぬかしてました。六ろと鉢屋が欲しい。
テストがオワタ\(^o^)/したのでリハビリがてら頑張ってみました。凄い忘れてる。前に書いたしろ師の続きです。
---
ex,sadden me
息を切らして、足を引きずりながら、必死に逃げる夢を見る。誰もいない真っ暗闇を、何も頼るものも無しに、駆け抜けている。背中に迫る生暖かい恐怖心のせいで、一度も振り返った事はない。俺は、俺を追い詰めるものの正体を知らない。ただひたすら逃げるだけ。次第に近付いてくる足音を振り切るくらいに、額を流れ落ちる汗にも構わず、前へ。捕われてしまったらどうなるか分からない。だから逃げる。この悪夢から解放されるまで、俺はいつも逃げ惑うのだ。
「‥っ、はぁ‥‥は、‥‥‥しろ‥‥?」
「怖い夢?うなされてたよ。」
再び俺の意識が吸い寄せられるように覚醒へと導かれたとき、奴の華奢な腕と、アメジストの瞳が視界に飛び込んだ。淡い橙色の灯りはオフホワイトのシーツを万遍なく照らし、ぴったりと閉められたグレーのカーテンから今が夜なのだということに気付いた。再び、朝何も言わずに飛び出したアイツの待つマンションに帰るのはあまり気が進まないが、何も関係の無い彼をこれ以上巻き込んで迷惑を掛ける訳にもいかない。
「‥‥帰る」
引き留めてくれるのではないかという僅かな期待を込めて放った呟きに、彼は何も言わずに頷くだけで、「じゃあね」と優しい声色でそれを促す。背中に回されていた腕が離れ、また自分が一人になり支えるものが無くなったと感じた時、俺は初めて夢の中で自分を追い詰めるものの正体を垣間見た気がした。
コイツは俺の恋人でもない。ただの幼い頃から知っている歳の離れた『友人』でしかなくて、俺も彼を選びはしなかったし、彼も俺を選びはしなかった。俺が選んだのは今頃俺の帰りを待っているであろう熊みたいな大男であり、この寂しさを、不安を、埋め合わせるのはコイツではない。
「あなたが寝てしまった後だけど、ソカロが俺に電話をくれたんだ」
起き上がろうとする俺を制するように手首を掴み、紫色の目をゆっくりと細めながら、彼が言う。俺は一瞬戸惑った。例え俺の行き先が分かっているにしろ、彼に直接連絡をするなんて初めての事だ。
泳いだ視線を彼に戻すと、彼は別段機嫌を損ねてしまったような表情も見せておらず、嘘の無い瞳で俺をじっと見て、俺の反応を窺っている。
「‥そうか‥‥気まずくさせた、な。」
「そんなことないさ、十年来の付き合いなのに」
「だが、しろ」
「‥‥ねえ、ねぇクロス。ひとつ俺に約束してくれない?」
「約束?」
俺が驚き思わずその単語を反復すると、彼は白い掌を俺の頬に添え、口許に微笑を浮かべる。俺は彼の初めて口にする『約束』という言葉に瞬きを繰り返すが、彼はさして気にも留めていないようだ。細い指先が遊ぶように耳や項を撫でるが、彼の真意は諮り知れない。
「もう俺の前で泣いたりしないと、約束して。」
「‥‥‥何故」
「俺はね、あなたにも、ソカロにも幸せになって欲しいんだ。それなのに時々、あなたはこうして俺の所へやって来ては、涙を見せて帰って行く。」
「それは‥」
感情的になり声を詰まらせる俺の唇に、項から彼の指が素早く移動する。俺がそれ以上先を話すのは許さない、といったように。柔らかい灯りにアメジストがきらりと光り、今まで一度も見せた事など無い悲しみを湛えている。
俺は言葉を呑んだ。一体何が、関係のない彼までをも苦しめているのか。俺には見当もつかなかった。いつも俺とソカロに距離を置いて、馬鹿らしい喧嘩に柔らかな笑いを溢し、慰めてくれる。そんな普段の彼の様子とはかけ離れた雰囲気を、今は纏っている。
「何故、おまえがそんな顔をする‥?」
「あなたが幸せになってくれなきゃ、俺も悲しいんだよ、クロス。」
「‥だが、」
「俺はね、あなたの事がこんなに好きなのに、あなたの幸せを願う事しか出来ないんだ」
彼は、笑って息も吐かずに続けると、漸く手首を解放し起き上がる。彼の表情はいつものような落ち着きを取り戻しており、「早くソカロの所へ帰ってあげて」と続けた。何と返せば良いのか分からずに困惑する自分をよそに、寝室のドアの前で彼は一度立ち止まり、俺に背を向けたまま小さな声でごめんねと呟く。
俺は彼の背中へ駆け寄った。駆け寄り彼の背中を抱き締めてしまえば、俺はまた彼を悲しませる事になるのだと、分かっていた。分かっていたから、伸ばしかけた腕を黙って下ろして、深い呼吸を繰り返す。彼は一寸も動こうとはしない。
「しろ、おまえに約束しよう」
彼の白い手を取る。随分と冷たい手だ。熱を持ち近寄るもの全てを遠ざけて生きてきた、そんな、彼の手だ。
(彼が寄り添う居場所など、何処にもなくなってしまうのは寂しい。)
彼は黙っている。絡み付く俺の手を振り払うこともしないで、沈黙を貫く。
「寂しくないふりばかり、しなくていい」
『誰も知らない』
お前の秘めた悲しみなど
(お前の押し殺した寂しさの分だけ、俺の幸せは悲しみに変わる)